防波扉の開発経緯
防波扉1/20モデル(幅1mx高さ1mx厚み20cm)の写真 (国連防災世界会議の後半に展示)
2011年3月11日の東日本大震災による大津波災害を経験して、そのような大津波の災害を少しでも低減できるような設備を開発したいと考えました。その時に留意したのは、「機械や人力で、動作させたり開口部を閉止したりさせると、動作ミスや作業員の生命への危険性があるので、それらを避けるために自動式に動作する装置にすること」、「高さ10m以上の防潮堤などの巨大な装置になって、視界を大きく遮ったり生活環境を寸断したりすることのないように、通常時はコンパクトに収納でき、津波浸水時に移動や拡張をして対応できる装置にすること」、「津波想定高さが大きくなっていく中で装置も大掛かりになっていくので経済的な装置であること」の3点でした。
そして、木材の持つ水中での浮力、強度、経済性に着目して、開発したのが防波扉です。この設備では、強化木製ユニット(2~3m高さx5m幅x20~30cm厚み)を構造体とし、それを海岸近くの陸地に設置し、その一辺を地面側に蝶番形式で接続し、他辺側が津波浸水時に浮力で立ち上がって、その立ち上がった位置をサポートで支えることによって、防潮堤として機能するものです。このユニットは木材で製作するので経済的ですし、木材の持つ水中での浮力を活用して自動的に動作し、コンパクトに収納することを可能にしました。ユニット形式なので、長い海岸線の防御に対して並べて設置することで対応できるし、屏風のように多段に重ねて置けるので、通常時あまり邪魔にならずに、高い津波想定高さにも対応可能と考えています(例えば、3m高さの防波扉を5段重ねれば、計算上は3x5=15mの津波高さまでカバーでき、1段当りの厚みは20~30cmなので、5段積んでも設置高さは1~1.5mに抑えられます。)。
一方、課題は、「課題1:ユニット形状で自動式であるために、ユニットの両側に隙間があって水密でなく、減災効果をどれだけ発揮できるか」と、「課題2:木材を使っているため、構造体や接続部等の強度が津波の威力に耐えられるか(そのような木材の厚みで津波に耐えられるか?)」という2点でした。
課題1の減災効果については、2015年4~5月に京都大学防災研究所でモデル実験を行い、防波扉は、その高さと同じ固定式防潮堤の80~90%の「侵入波の高さ低減効果」があることが分かりました。この10~20%の効果低減が許容されるなら、通常の津波減災設備として適用できると考えられます。
課題2の構造体の強度については、先ずは強化木製ユニットを採用しました。 これは、角材で製作した木枠の両側を木板で挟んで作成したもので、両部材が上手く組み合わさって、経済的に全体強度を上げた構造体となっています。(この構造体は思ったより優れ者で、中が空洞になっていて、津波の浸水を取り込んで、自身のみかけ重量を増して強度も上がると考えています。しかも、これによって全体の浮力が落ちることはありません。なぜなら、木材が浮力を持ち、内部に入った水も外部の水も同じ比重だからです。又、木の水中での強度は、木材が水中にいる(木材の波の当る側と逆側に同じ水圧を受けている)場合は、その木材は水の移動する力だけを抑えれば良くて、それに見合った力で抑えてやれば、同じ位置をキープして、防潮堤として機能することが期待できます。これは、河川の氾濫時に、流木が橋脚に引っかかって河川が氾濫した災害例があることから、今回の防波扉でも適用できるのではないかと考えています。) こちらもモデル実験で、防波扉が水中で防潮堤として機能する状況の中では、木製構造体への破損の影響が殆どないことが分かりました。 また、接続部に採用しているワイヤも約1mm径のワイヤの2重リングを使って、モデル実験上は問題なく、水中での接続部の破損の影響はあまりないと判断されます。一方、サポートは、浸水と同じ水中でありながらも、津波の進行威力の全てを抑えて防波扉の位置を保持するため、その強度と保持にかかる力はかなりなものが必要であって、初期のモデル実験でも屈曲やサポート位置の後退などを引き起こした。ということから、特に実用設備においてはサポートの強度と保持は適切に検討して十分に対応していく必要があることが分かりました。